この記事でわかること
- US
GAAPとIFRSの根本的な違い(細則主義と原則主義)と、なぜその差が生まれたのか - 実務と試験で押さえるべき主要10論点の対比表(棚卸資産・固定資産・開発費・減損・のれん・リース・収益認識・金融商品・引当金・表示)
- 2027年1月1日以後開始事業年度から適用されるIFRS第18号で、損益計算書の表示がどう変わるか
- コンバージェンス(収斂)は止まっており、2027年以降はむしろ営業利益・EBITDAの比較可能性で差が広がるという見立て
- 日本基準がどちらに寄っているか(新リース基準・収益認識基準はIFRSと同内容)
- USCPAの学習でIFRSがどう問われるか(FARでの差異の扱い方)
著者情報:しわすゆう|USCPA(米国公認会計士)。大学在学時にアビタスのUSCPA講座を受講しUSCPAを取得。新卒でBIG4監査法人に就職し会計監査を3年経験。現在はコンサル会社に勤務。
最終更新日:2026年8月30日
「US
GAAPとIFRSは何が違うのか」「どちらを覚えればいいのか」「もう統一されつつあるのでは」と考えている方に向けた記事です。
結論から言うと、両者の違いは細かい処理の差ではなく、基準の作り方そのものにあります。US
GAAPは細則主義(ルールベース)、IFRSは原則主義(プリンシプルベース)です。
US
GAAPは「この場合はこう処理する」という具体的な規定を積み上げる方式、IFRSは「原則を示し、当てはめは経営者の判断に委ねる」方式です。この差が、個別論点の差異をすべて生んでいます。
そして、多くの解説記事が書いている「コンバージェンス(収斂)が進んで差は縮んでいる」という説明は、2026年時点では正確ではありません。
収益認識(ASC 606とIFRS
15)のように統一された分野がある一方、2027年1月1日以後開始事業年度から適用されるIFRS第18号により、損益計算書の表示と営業利益の定義でむしろ差が広がる見込みです。
この記事では、IASB・FASBの公表資料と実務解説をもとに、主要10論点の違いと、2027年に何が起きるかを整理します。
IFRSを体系的に学ぶ選択肢は「USCPAとIFRS検定の違い|どちらを先に取るべきか比較」で扱っています。
なぜ違うのか|細則主義と原則主義
US
GAAPは細則主義で、想定される取引ごとに詳細な規定と数値基準を置く。IFRSは原則主義で、原則と定義を示し、具体的な当てはめは経営者の判断に委ねる。この違いは、米国の訴訟環境(明確な基準がないと責任を問われやすい)と、IFRSが多様な国・業種に適用されることを前提としている事情から生まれている。
| 観点 | US GAAP(細則主義) | IFRS(原則主義) |
|---|---|---|
| 基準の書き方 | 具体的な規定・数値基準・例外を詳細に規定 | 原則と定義を示す。判断の余地が大きい |
| 分量 | 膨大(FASB Codification) | US GAAPより少ない |
| 判断の余地 | 小さい。基準に当てはめる | 大きい。実態に即して判断する |
| メリット | 処理のばらつきが小さい。監査で争いにくい | 多様な取引・国・業種に対応できる |
| デメリット | 想定外の取引に弱い。形式主義に陥りやすい | 企業間の比較可能性が下がる |
| 開示 | 規定に沿った開示 | 判断の根拠の説明が求められる |
「どちらが優れているか」ではなく、設計思想が違うだけです。
実務では、IFRSのほうが「なぜその処理をしたか」を説明する負担が重く、US
GAAPは「基準のどこに該当するか」を探す負担が重いという違いとして表れます。
主要10論点の対比表
両者の差が最も表れるのは、棚卸資産・固定資産・開発費・減損の4論点である。特に「棚卸資産の後入先出法(LIFO)がUS
GAAPでは認められIFRSでは認められない」「減損損失の戻入がIFRSでは認められUS
GAAPでは認められない」の2つは、結論が正反対になる代表例である。
| 論点 | US GAAP | IFRS |
|---|---|---|
| ①棚卸資産の評価方法 | 後入先出法(LIFO)が認められる | LIFOは認められない |
| ②棚卸資産の評価減の戻入 | 認められない | 認められる(取得原価を上限) |
| ③固定資産の測定 | 原価モデルのみ | 再評価モデルも選択できる(IAS 16) |
| ④開発費 | 原則費用処理(ソフトウェア等に例外) | 要件を満たせば無形資産として資産計上(IAS 38) |
| ⑤減損の判定 | 回収可能性テスト(未割引CFとの比較を含む枠組み) | 単一モデル(回収可能価額と帳簿価額の比較) |
| ⑥減損損失の戻入 | 認められない | 認められる(のれんを除く) |
| ⑦のれん | 償却しない+減損テスト(非上場企業は10年以内の償却が選択可) | 償却しない+毎期の減損テスト |
| ⑧リース(借手) | ASC 842。資産・負債は計上するが費用計上でファイナンス/オペレーティングを区分 |
IFRS 16。単一モデル(すべて減価償却+利息) |
| ⑨収益認識 | ASC 606 | IFRS 15。ほぼ同内容(収斂済み) |
| ⑩引当金・偶発事象 | 「probable(可能性が高い)」の閾値が高め | 「more likely than not(50%超)」で認識 |
出典:FASB
Codification、IASBの各基準(2026年8月30日確認)。細部の適用は原文基準で確認してください。
⑨の収益認識は、両者が共同で開発したため実質的に同じ内容です。日本の収益認識基準もこれに整合しています。
一方、①②③④⑥は結論そのものが違うため、財務諸表を横断的に比較する際に注意が必要です。
特に覚えておきたい3つ
| 論点 | 覚え方 |
|---|---|
| LIFO | 「US GAAPだけがLIFOを認める」。米国の税務上の理由が背景 |
| 減損の戻入 | 「IFRSは戻せる、US GAAPは戻せない」。ただしIFRSでものれんは戻せない |
| 開発費 | 「IFRSは条件付きで資産計上、US GAAPは原則費用」 |
USCPAのFARでは、US
GAAPを主軸に学び、この差異が「IFRSでは異なる」という形で問われます。
FARの学習範囲は「USCPA FARの勉強時間と勉強法|450時間の学習ログ公開」で扱っています。
2027年に何が変わるか|IFRS第18号の影響
IASBは2024年4月にIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表し、2027年1月1日以後開始事業年度から適用される(早期適用可)。損益計算書に「営業」「投資」「財務」の3区分を設け、営業損益などの小計を規定し、さらに経営者業績指標(MPMs)の開示と段階利益との調整表を求める内容である。US
GAAPにはこれに対応する改正がないため、損益計算書の構造で新たな差が生まれる。
| 項目 | IFRS第18号(2027年〜) | US GAAP |
|---|---|---|
| 損益計算書の区分 | 営業・投資・財務の3区分を規定 | 区分の規定は緩やか |
| 小計 | 営業損益、財務及び法人所得税前利益などを規定 | 営業利益の定義に統一規定がない |
| 経営者業績指標(MPMs) | 注記での開示と調整表を要求 | 非GAAP指標はSEC規則で規制 |
| 費用の分類 | 性質別・機能別の開示要求 | ASUによる費用分解の開示要求が進行 |
| 適用時期 | 2027年1月1日以後開始事業年度 | ― |
出典:IASB「IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial
Statements」および各社の実務解説(2026年8月30日確認)。
多くの解説記事は「コンバージェンスで差は縮んでいる」と書いていますが、この点では逆です。
IFRS第18号によってIFRS側の営業利益の定義が明確になる一方、US
GAAPには統一定義がないため、営業利益やEBITDAを両基準間で比較する難易度は上がります。
実務への影響は次のとおりです。
| 影響を受ける人 | 何が起きるか |
|---|---|
| IFRS任意適用企業の経理 | 損益計算書の様式変更、システム対応、MPMsの整理 |
| US GAAP適用企業の経理 | 直接の影響はないが、IFRS企業との比較分析で注意が必要 |
| アナリスト・投資家 | 基準をまたいだ営業利益・EBITDAの比較に補正が必要 |
| USCPA受験生 | FARのIFRS差異論点として今後扱われる可能性 |
日本基準はどちらに寄っているか
日本基準は、収益認識基準(IFRS
15と整合)、2027年適用の新リース会計基準(IFRS
16と同内容)のように、近年はIFRSに寄せる形で改正が進んでいる。一方でのれんの償却は維持されており、IFRS・US
GAAPのいずれとも異なる。日本の経理担当者にとっては「3つの基準の差を意識する」場面が今後も残る。
| 論点 | 日本基準 | US GAAP | IFRS |
|---|---|---|---|
| のれん | 20年以内で償却 | 償却しない | 償却しない |
| リース(借手) | 2027年4月以後開始事業年度からオンバランス(IFRS 16と同内容) |
ASC 842でオンバランス | IFRS 16でオンバランス |
| 収益認識 | IFRS 15と整合 | ASC 606 | IFRS 15 |
| 棚卸資産のLIFO | 認められない | 認められる | 認められない |
| 減損の戻入 | 認められない | 認められない | 認められる |
| 開発費 | 原則費用処理 | 原則費用処理 | 条件付きで資産計上 |
日本基準の直近の改正は、IFRSとの距離を縮める方向です。
2027年4月1日以後開始事業年度から適用される新リース会計基準は、借手のすべてのリースをオンバランスする点でIFRS第16号と同内容になります。
つまり、日本の経理担当者にとってIFRSの知識は「他社の話」ではなくなりつつあります。
日本基準・IFRSの学習の選択肢は「USCPAとIFRS検定の違い|どちらを先に取るべきか比較」で整理しています。
USCPAではどう問われるか
USCPAのFARはUS GAAPを主軸とし、IFRSは「US
GAAPと重要な差異がある論点」として比較の形で出題される。したがって受験生の学習法は、まずUS
GAAPの処理を固め、差異のある論点だけをIFRSと対比して覚えるという順序になる。IFRSを一から体系的に学ぶ必要はない。
| 学習の段階 | やること |
|---|---|
| 1. US GAAPを固める | FARの論点をUS GAAPで理解する |
| 2. 差異論点を特定する | LIFO・減損の戻入・開発費・固定資産の再評価など |
| 3. 対比で覚える | 「US GAAPは◯、IFRSは×」の形で表にする |
| 4. 深追いしない | IFRS固有の詳細な規定までは問われにくい |
差異論点は数が限られているため、表を1枚作れば対応できます。
本記事の10論点の対比表は、そのまま試験対策の下敷きとして使えます。
USCPAの学習量と受験要件は、アビタスの無料説明会(アビタスの無料説明会で最新情報を確認する)で自分の状況に応じた目安を確認できます。
筆者が実務で差を意識した場面
筆者が監査法人で最も差を意識したのは、日本子会社の数字を米国本社に報告する場面でした。日本基準で作った数字をUS
GAAPの報告パッケージに直す作業で、差異が出るのは決まって同じ論点でした。
実務で出てきた差異を整理します。
| 論点 | 何が起きたか |
|---|---|
| のれん | 日本基準で償却していたのれんを、US GAAPでは償却しないため戻す調整 |
| 減損 | 判定の枠組みが違うため、日本基準では減損なし・US GAAPでは検討が必要というケース |
| リース | 日本基準のオペレーティングリースを、US GAAPでは資産・負債に計上 |
| 引当金 | 認識の閾値が違うため、計上時期がずれる |
| 開発費 | 日本基準もUS GAAPも原則費用処理のため差は小さい(IFRS適用会社では論点になる) |
毎期同じ論点で調整が発生するため、実務では「差異調整表」を作って引き継いでいました。
新人のときに一番戸惑ったのは、「日本基準では正しい処理なのに、報告パッケージでは直す」という感覚です。
これは、どちらかが間違っているのではなく、目的の違う2つのルールを同時に扱っているだけだと理解すると、迷いがなくなります。
英文の報告パッケージへの対応は「外資系経理のキャリアとUSCPA|職階別の仕事・年収・昇進の道」でも扱っています。
よくある質問(FAQ)
Q1. US
GAAPとIFRSの最大の違いは何ですか?
基準の作り方(細則主義と原則主義)です。
US
GAAPは具体的な規定と数値基準を詳細に置き、IFRSは原則を示して当てはめを経営者の判断に委ねます。
個別論点の差異は、すべてこの設計思想の違いから派生しています。
Q2.
コンバージェンス(収斂)は進んでいるのですか?
分野によります。
収益認識(ASC 606とIFRS
15)は共同開発により実質的に統一されましたが、棚卸資産・減損・開発費などの差は残っています。
さらに、2027年適用のIFRS第18号により、損益計算書の表示と営業利益の定義では新たな差が生まれる見込みです。「差が縮み続けている」という理解は現状に合いません。
Q3. どちらを覚えるべきですか?
目的で決めてください。
USCPAを目指すならUS
GAAPが主軸(IFRSは差異論点のみ)、IFRS任意適用企業や欧州系企業で働くならIFRS、日本の経理ならまず日本基準です。
ただし日本基準はIFRSに寄せる改正が続いているため、日本の経理でもIFRSの考え方は知っておく価値があります。
Q4.
LIFO(後入先出法)はなぜUS GAAPだけ認められるのですか?
米国の税務上の事情が背景にあります。
米国では、財務会計でLIFOを採用した場合に税務でもLIFOを使えるという整合の要請があり、実務上の慣行として残っています。
IFRSは「物の流れの実態を表さない」としてLIFOを認めていません。日本基準でも認められていません。
Q5.
減損損失の戻入はなぜ扱いが違うのですか?
IFRSは「回収可能価額が回復したなら帳簿価額も戻すべき」という原則主義の考え方を取るためです。
US
GAAPは、戻入を認めると利益操作の余地が生まれるという観点から認めていません。
なお、IFRSでものれんの減損は戻入できません。
Q6.
IFRS第18号は日本企業に影響しますか?
IFRSを任意適用している日本企業には直接影響します。
2027年1月1日以後開始事業年度から、損益計算書の3区分表示、規定された小計、経営者業績指標(MPMs)の開示と調整表が必要になり、会計システムの対応も求められます。
日本基準適用企業への直接の影響はありませんが、将来の日本基準の改正に影響する可能性はあります。
Q7.
実務ではどのように差を管理していますか?
差異調整表(GAAP差異一覧)を作って毎期引き継ぐのが一般的です。
差異が出る論点は企業ごとにほぼ固定されるため、一度整理すれば毎期の作業は更新で済みます。
筆者が関わった案件でも、のれん・減損・リース・引当金の4論点が毎期の調整項目でした。
まとめ:設計思想の違いが10論点の差を生む
この記事の要点を再掲します。
- 根本の違いは細則主義(US
GAAP)と原則主義(IFRS)。個別論点の差異はすべてここから派生する - 結論が正反対になる代表例は、棚卸資産のLIFO(US
GAAPのみ可)と減損損失の戻入(IFRSのみ可、のれんを除く) - そのほかの主要差異は、固定資産の再評価モデル・開発費の資産計上・リースの費用計上区分・引当金の認識閾値
- 収益認識(ASC 606とIFRS
15)は実質的に統一済み。日本の収益認識基準もこれに整合 - 2027年1月1日以後開始事業年度から適用のIFRS第18号で、損益計算書に営業・投資・財務の3区分とMPMs開示が導入され、営業利益・EBITDAの比較可能性ではむしろ差が広がる
- 日本基準はIFRSに寄る方向(2027年4月以後の新リース基準はIFRS
16と同内容)。ただしのれんは償却を維持しており、3基準の差は残る - USCPAではUS
GAAPを主軸に、差異論点だけをIFRSと対比して覚えれば足りる
基準の違いは暗記事項に見えますが、「なぜその設計になっているか」を理解すると、個別の差異は導けます。
まずはLIFO・減損の戻入・開発費の3つだけを「US
GAAPは◯、IFRSは×」の形で言えるようにするところから始めてみてください。ここが差異論点の入口です。
なお、これらを体系的に学びたい場合の選択肢と学習量は、アビタスの無料説明会(アビタスの無料説明会で最新情報を確認する)で確認できます。
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